病気の話

腰痛について(その2)

副院長 兵藤 弘訓

腰痛の分類

一般臨床医を対象とした腰痛ガイドラインが各国から発表され、そこでは腰痛を1)危険な腰痛(特異的腰痛)、2)神経根性疼痛、3)非特異的腰痛の3群に分類しています。危険な腰痛とは腫瘍、感染、炎症性疾患、骨折などの発症原因が明確な特異的腰痛です。表1の条件を危険信号として、専門医への紹介を勧めています。神経根性疼痛は腰椎疾患による神経根障害による下肢痛です。原則1ヵ月間の保存療法の後に改善が得られなければMRIの撮像を勧めています。非特異的腰痛は腰痛の大半を占め、脊柱を構成する筋・骨格系(椎体、椎間板、椎間関節、筋・筋膜、靱帯など)に起因する痛みで、危険な腰痛に当てはまらないものです。また、急性腰痛は3ヵ月以内の持続する腰痛、慢性腰痛は3ヵ月以上持続する腰痛と定義しています。

1)危険な腰痛(特異的腰痛)

危険な腰痛とは腫瘍、感染、炎症性疾患、骨折など明らかな脊椎病変による腰痛で、早急に脊椎専門医へ紹介される必要があります。

悪性腫瘍の骨転移で最も頻度が高い部位は脊椎です。近年、癌治療の進歩による延命効果もあって、転移性脊椎腫瘍の頻度は増加傾向にあります。脊椎の感染である化膿性脊椎炎は高熱ないし微熱を伴った急性腰痛として多くが発症します。発熱がなく潜行性に発症したものは結核性脊椎炎との鑑別が問題になります。高齢女性の急性腰痛の原因の大半は骨粗鬆症性の椎体圧迫骨折によるものです。軽微な骨折で発症した場合はレントゲンで捉えられません。さらにレントゲンで捉えられる椎体の圧迫骨折は、腰痛と関連する新しいものか、あるいは関連の少ない古いものかの判断が困難です。これらはMRIによって診断が可能となっています。思春期の腰痛は、とくにスポーツに励んでいる子供では、椎弓の疲労骨折が原因で生じる腰椎分離症によるものが少なくありません。発症早期に診断ができれば運動の中止とコルセットによる安静によって骨癒合が期待できます。この早期診断もMRIによって可能です。

2)神経根性疼痛

神経根が圧迫されて生じる症状は腰痛、下肢の疼痛、しびれ、脱力です。主症状は殿部から下肢の症状であって腰痛は軽微なことが多いようです。馬尾が圧迫されて生じる症状は神経根症状に加えて会陰部のしびれ、排尿障害などです。各神経根にはそれぞれ特徴的な症状と所見があり、診察によってどの高位の神経根が障害されているかを推定できます。次いで神経根が何によって圧迫されているかを画像診断します。圧迫するものによって、椎間板ヘルニアや脊柱管狭窄症などと診断されます。ここで重要なことは画像上の圧迫所見によって生じるはずの下肢症状と患者さんの下肢症状が一致していることです。もし一致していなければ、この画像上の圧迫所見は症状と関係のないものと判断されます。これは症状のない画像上の神経根・馬尾の圧迫所見が数多くみられるためです。したがってその診断には丁寧かつ入念な診察が欠かせません。

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